「SEO 業者さんからこんな提案が来ているんですが、これ、正しいですか」
先日も、商品点数の多い EC サイトを運営している会社さんから、提案書を丸ごと渡されてこう聞かれました。
書いてあることはどれももっともらしい。でも社内に、それが正しいかを判断できる人がいない。
「実績がありそうだから」で決めてしまう前に、一度だけ別の目で見てほしい、というご相談でした。
私はもともと EC の事業者側で、事業の立ち上げから運営までを任されていました。
業者さんの提案書を受け取って判断する側だったので、あの心細さはよく分かります。
今は反対に、構築やリニューアルを進める側に立っています。
両方の机に座ってみて思うのは、提案書の良し悪しより先に確かめることがある、ということです。
その提案は、情報サイト向けの SEO を、そのまま EC に持ち込んでいないでしょうか。
EC の SEO は「書く」より「生成させる」
ブログやメディアの SEO なら、対象は人が 1 本ずつ書いたページです。
title を直す、見出しを直す、本文を足す。原稿を直せば、そのページは直ります。
EC はそうはいきません。
商品ページも、カテゴリページも、「黒・M サイズ」で絞り込んだ後の一覧ページも、
人が書いているわけではなく、テンプレートと商品データからシステムが自動で作っています。
つまり EC で「title を直しましょう」と言われたら、それは 1 ページの修正ではありません。
何千ページを吐き出している仕組みそのものの改修です。
SEO の施策が、そのまま EC システムの改修案件になるわけです。
なので私が提案書を読むときは、まず 2 つだけ確認します。
この施策は、御社が使っているシステムで実現できるのか。
できるとして、その改修は誰がやって、誰の見積に入っているのか。
ここに触れていない提案は、内容が正しくても、そのままでは前に進みません。
以下、実際に提案書を読むときに見ているところを順に書いていきます。
狙っているページが、御社の URL の作りと噛み合っているか
商品データを持つサイトの SEO には、ほぼ決まった勝ち筋があります。
条件を掛け合わせた一覧ページで、比較検討している人を拾うやり方です。
「オフィスチェア」→「オフィスチェア 肘掛けあり」→「オフィスチェア 肘掛けあり メッシュ」。
こういう階層の一覧ページを主役に据える提案なら、戦略としては王道です。
逆に、順位保証や被リンクの本数を前面に出している提案は、この段階で少し身構えていいと思います。
ただ、戦略が正しいことと、御社で実行できることは別の話です。
絞り込み後のページが今どんな URL で出ているか、ご存じでしょうか。?color=black のようなパラメータなのか、独立したページとして出せるのか。
title に絞り込み条件を入れられるのか。
システムによっては、絞り込み後のページに個別の title を入れる欄が、そもそも用意されていません。
ここを確かめないまま階層図だけが描かれている提案は、実行の段階で止まります。
業者さんには、こう聞いてみてください。
うちのシステムで、この階層の URL は今どう出ていますか。
独立したページにするには、システム側でどんな改修が要りますか。
「どのページを検索に載せないか」まで決めているか
条件の掛け合わせページは、増やせば増やすほど良い、というものではありません。
誰も検索しない組み合わせまで検索エンジンに載せると、中身の薄いページが大量にでき、
サイト全体の評価をかえって下げてしまいます。
しかも、どのページを載せるかの判定も、EC ではシステム側の仕事です。
「該当商品が 0 件なら載せない」「検索されない組み合わせは親の一覧に寄せる」。
こうしたルールを、ページを作る仕組みに組み込むことになります。
業者の設計力は、ひとつの質問でだいたい分かります。
どの組み合わせを検索に載せて、どれを載せませんか。判断基準は何ですか。
それはシステムの標準機能で設定できますか。改修が必要ですか。
ここで即答できない、あるいは「全部載せます」と返ってくる場合は、
戦略が正しくても、実装の段階でつまずく可能性が高いと私は見ています。
「LLMO 対策」は、Google の公式見解と並べると中身が見える
最近は「AI 検索対策」「LLMO 対策」を看板にした提案も増えました。
これは Google が公式に「不要」と言っているものと並べると、判断しやすくなります。
公式に不要とされているのは、たとえば次のようなものです。
llms.txt のような AI 向けの専用ファイル、AI 専用の構造化データ、
人工的に言及を増やす施策、キーワードの言い回し違いでページを量産すること。
これらが売りになっている提案なら、上乗せ料金の理由づけになっていないか、一度疑ってみてください。
反対に、公式にやるべきとされているのは地味なことばかりです。
検索エンジンにきちんと登録されていること。ありふれていない、一次体験のあるコンテンツ。
そして EC なら、商品フィード(商品情報を外部に渡すためのデータ)とビジネスプロフィールの整備です。
正直に言うと、「LLMO 対策の実体はふつうの SEO」という説明自体は間違っていません。
ただ、その名目で割増を払う理由はない、というのが私の考えです。
EC の場合、ここでも効いてくるのはシステムです。
商品フィードは商品データベースから出すものなので、在庫や価格の更新頻度、
商品情報の持ち方といったシステムの作りが、そのまま品質に出ます。
提案に商品フィードの話が入っていなければ、AI 経由の購入につながる部分が抜けている、と指摘できます。
見積には、たぶん「全部」は入っていない
総額が一番大きく動くのがここです。
一覧ページを独立した URL にする、title を自動で作る、内部リンクを自動で張る。
こうした仕組み化には、EC システム側の改修費が別にかかります。
SEO 業者の見積に入っているのは、多くの場合「こう作ってください」という要件定義までです。
システム会社の見積を横に並べて、はじめて総額が見えます。
ここを飛ばして契約すると、後から「思っていた額と桁が違う」ということが起こります。
誤解のないように書くと、これは業者が不誠実だという話ではありません。
EC の SEO は、構造的に別の会社の作業を必要とする、というだけです。
むしろ提案書に「システム側の改修が別途必要です」と書いてある業者の方が、
実務を分かっています。
数字の目標に、根拠が書いてあるか
アクセス数や売上の予測が載っていたら、どう計算したかを出してもらってください。
「検索回数 × 想定順位 × クリック率」の掛け算になっているはずです。
記事を書くだけで短期間に数千アクセス、という予測は楽観的なことが多いです。
「目標数値は契約後に決めます」とある場合は、約束するラインが決まっていない状態です。
最低ラインだけは、契約前に決めておくことをおすすめします。
効果を測る計測は、そもそも正しく動いているか
見落とされがちですが、私が一番気にするのはここかもしれません。
施策が効いたかどうかは、最終的に GA4 の数字で判断します。
ところが EC では、その計測が壊れていることが珍しくありません。
セキュリティ設定の影響でタグが読み込まれていない。特定の決済方法だけ購入が記録されていない。スマホだけ金額が空になっている。
計測が壊れたまま施策を打つと、効いたのかどうか分からないまま、費用だけが積み上がっていきます。
既知の欠損があるなら、施策の前に、少なくとも並行して、計測を直しておく必要があります。
「小さく試しましょう」と言ってくる業者は、信頼していい
もし提案の中に、こんな一文があったら、それは良い兆候です。
「一覧ページの仕組み化は効果が大きいけれど、初期投資も大きい。
まずは記事で似た一覧ページを作って効果を確かめ、それから仕組み化しましょう」
こういう段取りを自分から出してくる業者は、システム側のコストが見えています。
いきなり大きな改修契約を迫ってくる相手より、ずっと実務的です。
提案書を受け取ったら、まずやってほしいこと
SEO 業者を否定したくて、この記事を書いたわけではありません。
発注する側に判断の軸がないと、良い業者に当たっても成果が測れず、
悪い業者に当たっても気づけない。それがもったいないと思っています。
手元に提案書があるなら、まずは上に書いた質問を 2 つか 3 つ、業者さんに投げてみてください。
返ってきた答えで、その提案がどこまで御社のシステムを見て書かれているかが、かなり分かるはずです。
それでも「この答えで合っているのか分からない」ということもあると思います。
提案書とシステムの仕様を突き合わせて、発注側の立場で一緒に読むのが、私の仕事です。
業者はほぼ決まっていて、契約の前に一度だけ別の目で見てほしい、というご相談も歓迎です。
その場合も、御社のシステムで本当に動くのか、という一点から読みます。
(Google の公式見解は、検索セントラルの AI 検索に関するドキュメントを参照しています。
仕様は変わることがあるので、契約時点の最新版もあわせてご確認ください)
